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日本と中国の関係は 2011.11.19.

お昼のニュースで、日中韓でFTA(自由貿易協定)協議に。TPPもあるし、日本の将来は大丈夫なのでしょうか?

改めて、田中宇さんの配信メールを読みなおしています。

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米国が誘導する中国包囲網の虚実

2011年10月5日  田中 宇


 9月27日、フィリピンのアキノ大統領が日本を訪問し、野田首相ら日本側に対し、日本が南シナ海の南沙群島をめぐる領海紛争を仲裁する介入をしてほしいと頼んだ。日本政府は、公海上の自由航行の維持を重視して、アキノの要請を受け入れ、日比間を「戦略パートナー」の関係に格上げし、日比間で海上の合同軍事演習を高頻度で行うことなどで合意した。(Aquino risks China ire in talks on Spratlys

 南沙群島問題は、中国と、フィリピン、ベトナムなど東南アジア諸国が領有権を主張する多国間の領海紛争だ。フィリピンやベトナムは、2国間で交渉すると中国が優勢になることから、ASEAN+3など多国間で協議することを目指している。だが、経済主導で東南アジアに対する影響力を拡大する中国は、自国に有利になることを目指し、この問題での多国間での協議を拒否し、すべて2国間で交渉することを主張してきた。一昨年から米国が、ベトナムやフィリピンの味方をして南沙問題に介入してきたが、中国は経済面でベトナムやフィリピンに攻勢(新たな投資案件など)をかけて対抗し、再び中国側が優勢になっている。(Electricity demands could limit Beijing-Hanoi rift

 そんな中、フィリピンが日本に頼んで南沙問題に介入してもらったことは、フィリピンやベトナムの側の立場を強化し、中国を多国間協議の場に引っ張り出せるようになるのでないかと、フィリピン側で期待されている。フィリピン政府は今後、ASEANの場で多国間協議の場を作る準備を進め、日本がそれを支持し、中国からの圧力に対抗していく方向だ。(Senators cite ups and downs of Philippines-Japan security pact

 東京では、アキノ訪日とほとんど同じ日程で、日本政府がASEAN諸国の防衛次官級の代表を集めて南沙問題などについて話し合う会合が開かれた。ASEAN諸国と日本との防衛次官級会議は、09年から毎年開かれているが、南沙問題(自由航行の問題)に焦点を当てて協議したのは初めてだ。参加者は、南シナ海で台頭する中国の脅威に、協調して対応していくことを確認した。日本の中江公人防衛次官は、南沙問題の交渉に米国やインドも参加してもらう必要があると表明した。日本は、南沙問題での中国の優位を崩すため、日米インドといった外部の強い勢力が介入する必要があると主張し始めた。(Asian Bloc Agrees to Counter China Heft

 日本政府は、フィリピンとの戦略関係の締結、そしてASEANとの次官級会議の開催を通じて、南沙群島問題を、中国が嫌がる多国間協議の方向に持っていこうとする努力を顕在的に開始した。これは、これまでの日本の外交姿勢からすると、画期的な大転換である。日本が本気で南沙問題に首を突っ込むつもりであるとしたら、それは大きな驚きだ。従来の日本の安全保障分野での外交姿勢は、日米同盟のみを重視し、それ以外の国々との関係を独自に強化することに消極的だった。日本は、米国に命じられ、数年前からオーストラリアやインドとの安保協力を強化しているが、これは米国に命じられたからであって、日本独自の戦略でない。

 今の日本政府は、震災や原発事故への対策、景気対策など国内問題への対応を最重要に考え、事実上、外交問題を二の次にしている。野田政権は、新たな外交を展開することに対する消極性が菅政権よりも強い感じで、特に新たな外交戦略を打ち出していない。それなのに野田政権は、9月末から突然、中国に対抗する立場で南沙問題に首を突っ込み始めたので、意外な感じを生んでいる。

 とはいえ、意外な感じがするのは、米国からの依頼なしに独自に動き出したのだとしたら、という場合のみだ。この前提がなく、もし日本が米国から命じられて(頼まれて)動き出したのであれば、それは対米従属の国是の一環として、日本がいやいやながら南沙問題に首を突っ込まねばならなくなっただけであり、画期的なことでない。むしろ、なぜ米国が日本にそのような依頼(命令)を出したのかが考察の対象となる。

 新たな外交戦略を展開しそうもない野田政権の特徴から考えて、日本政府が突然に南沙問題に首を突っ込み始めたのは、米国の依頼(命令)を受けてのことと考えられる。日本政府は、フィリピンだけから頼まれても、中国と敵対するリスクをとって動き出さないだろう。フィリピンの後ろに米国がいるはずだ。ウォールストリートジャーナルも、日本は米国に比べ、中国と敵対してまで南沙問題での東南アジア諸国を支持することに消極的だったが、この問題で米国に追随することを検討したのでないかという指摘を紹介している。(Japan, Philippines Seek Tighter Ties to Counter China

 日本に対し、南沙問題に首を突っ込んでくれと依頼してきたのはフィリピンだが、フィリピン自身も、中国と敵対してまで日本を引っ張り込むことが良い戦略なのかどうか、政界で論争になっている。フィリピンは経済的に中国への依存を強めているため、フィリピンを支配する上院議員ら大金持ち家族の中から慎重論が出ている。("Bundling Strategy" over South China Sea will be disillusioned

 日本もフィリピンも、中国と敵対しても南沙問題で強い姿勢をとることに消極的な姿勢が国内政界に存在している。しかし、政府は慎重論を振り切り、国内政界のコンセンサスをとらずに、強い姿勢の方に進み出している。日本が米国から命じられて強い姿勢に転じたのだとしたら、フィリピンも同様に、米国からの圧力ないし誘い受けて、政府が南沙問題で強い姿勢に転換し、その後、米国がアキノに「日本に圧力をかけておくから訪日して野田に頼め」と指示したのかもしれない。

 米国は日本やフィリピンだけでなく、いろいろな国をけしかけて、南沙問題で中国に敵対させている。昨年夏、米国のクリントン国務長官が「南シナ海の航路の安定は米国の国益である」と宣言し、ベトナムを煽動して南沙問題で中国との敵対を強めさせた。しかし結局、ベトナム政府は中国との経済関係を重視し、中国との対立激化を避けるようになった。(南シナ海で中国敵視を煽る米国

 その後、米国の仲介があったのか定かでないが、ベトナムが領有権を主張する海域での海底油田の開発を、インドの国営石油会社が請け負った。今年7月には、ベトナム沖でインド海軍の船が中国船と対峙する事態も起きた。中国がパキスタンとの安保関係を強化し、スリランカに大規模なコンテナ港を作ってやったりしてインド包囲網的な動きをしているため、インドは対抗し、中国近傍のベトナムとの間で、中国側が嫌がる関係強化をしている。(The India-Vietnam Axis

 米国はインドネシアやシンガポールとの軍事協力関係を強化している。また南沙問題に直接関係ないが、米国は最近、オーストラリアとも軍事関係を強化している。(Australia in push to strengthen US defence ties

 中国共産党の機関紙である人民日報が出している英字新聞、環球時報は、9月29日づけで「南沙群島はすべて中国のものだ。警告しても無視し続けるなら、フィリピンとベトナムが南沙群島に持つ海底油田の油井や島の飛行場などを中国軍が空爆する軍事制裁をすべきだ。中国は南沙群島にまだ油井も飛行場も持っていないので、やり返される心配がなく、攻撃し放題だ。米国が威嚇してきても、真に受けるべきでない。米国は中東の戦争などの失敗で弱まっている」という主旨の好戦的な論文を掲載した。(Time to teach those around South China Sea a lesson

 中国がこのタイミングで好戦的な論文を、わざわざ日米や東南アジアの人々が読めるように英語で出してきた理由について、UPI通信は、日本やフィリピンが南沙問題で中国に敵対する多国間協議を始めたのに加え、インドがベトナムの南沙群島の油田開発を請け負ったからだろう、と分析している。(War in South China Sea?

 環球時報の論文は勇ましいが、中国は本気で南沙群島にあるベトナムやフィリピンの油井や飛行場を空爆するつもりなのだろうか。そんなことをしたら中国は、欧米だけでなく、これまで中国の味方をしてきた途上国や新興諸国をも含めた国際社会の全体から非難されてしまう。中国の戦略は、できるだけ目立たず、非難されぬようにしつつ、台頭することだ。中国がベトナム戦争の余波で北ベトナムに軍事侵攻して中越戦争を起こした1979年ごろとは、中国が置かれている国際状況が大きく違う。ベトナムやフィリピンの方も、東アジアの覇権国になっていきそうな中国と戦争などしたくない。環球時報が指摘するとおり、米国も最大の債権国である中国と戦争する気がない。南沙群島で、小競り合い的な軍事衝突を超えた本格戦争が起きる素地は少ない。

 米国が中国と戦争する気がないなら、米国はなぜアジア諸国をけしかけて南沙問題で中国との敵対を増強する戦略をとるのか。「米国は、自分では中国と戦争する気がないので、代わりにアジア諸国をけしかけて中国と対決させ、中国の台頭を抑止しようとしている」という見方がある。しかし私から見ると、米国がアジア諸国をけしかけて中国と対立させ、中国の台頭を抑止する戦略は、成功する確率が非常に低い。その理由は「軍事」でなく「経済」にある。(Chinese suspicion over US intentions

 日本や東南アジア諸国は、製造業の輸出で豊かになることをめざしている。これまでは米国が世界最大の消費市場だったが、ここ数年の金融危機によって、米国は政府も家計も赤字漬けで消費できなくなり、アジアの製品を輸入する力が衰えている。代わりに今後、世界最大の消費市場になっていくことが確実視されているのが中国だ。米経済の弱体化によって、アジア諸国は、中国市場で商品を売らないとやっていけなくなることが確定しつつある。今後もし米国で金融危機が再燃したら、米国から中国への消費地の移転は不可逆的、決定的になる。

 ところが米国は、まさに自国の消費力が減退し、アジア諸国が市場面で中国に頼る傾向を強める方向性が確定した後になって、南沙問題で東南アジアや日本をけしかけ、中国との対立を煽り始めた。今はまだ、米国の経済弱体化が一時的なものかもしれないと皆が思っているので、アジア諸国は、米国の煽動に乗って中国との敵対を強めている。だが長期的に考えると、アジア諸国の多くは実利的な動きをして、中国との対立を弱めたいと考える傾向を強めるだろう。

 今ごろ中国敵視を煽動し始める米国は、アジア諸国の多くにとって、ありがた迷惑だろう。米国が中国包囲網を強化したいなら、米経済がまだ隆々としていて、中国がまだ発展途上国そのものだった1990年代にやるべきだった。中国を「責任ある大国にする」という、ここ10年ほどの米国の中国戦略は、中国間違包囲網の強化と逆方向だ。

 失敗するとわかっているのに、なぜ米国は、南沙問題でアジア諸国をけしかけて中国との敵対を煽るのか。一つありそうなことが、軍産複合体の営業活動だ。米国は財政難で防衛費も削減されていく傾向にある。イラクやアフガンの戦争で米政府が軍事費を大盤振る舞いする時代も終わりかけている。米国の軍事産業は、米政府からお金をもらえなくなるので、代わりに米国の言いなりになる外貨準備の豊富なアジア諸国に、中国との敵対を煽り、その裏でアジア諸国に兵器を売りつける戦法と考えられる。

 もう一つ言えそうなのは、私の従来からの持論である「隠れ多極主義」だ。72年のニクソン訪中以来、米国には中国を発展台頭させたいと考える長期戦略の流れがある。それと逆方向の、中国包囲網の強化という冷戦型の長期戦略(米英中心主義)が、この40年間の米国の対中国戦略として並立し、相克状態になっている。よく「米国人は間抜けなところがあるので、矛盾した中国戦略をやってしまう」と物知り顔で解説してみせる人がいるが、間抜けさが理由で40年間も一貫して相克状態が続くことはない。米中枢に構造的な戦略の対立があるか、もしくは意図的に戦略の相克状態を長期化させていると考えるのが自然だ。

 背景はどうあれ、米中枢に多極化を好む勢力がいようがいまいが、米国がアジア諸国をけしかけて中国包囲網を作らせる戦略は、いずれ解体していくだろう。米経済が昔のように隆々とした状態に戻るなら、米国の財政赤字も減り、米国の覇権が維持されるだろうが、米国の金融システムがこれ以上の崩壊なしに安定強化の方向に戻る確率は低い。

 同時に予測できるのは、米政府の財政難が続き、米軍が日韓などアジアから撤退していく傾向だ。米政府が早く黒白をつけたいと急ぐので、沖縄の普天間基地の辺野古移転も来年には失敗色がさらに顕在化し、沖縄駐留の海兵隊をグアム島やハワイ、米本土に退却させる米上院議員たちの案が具体化していく可能性が大きい。(日本が忘れた普天間問題に取り組む米議会

 そんな中で、日本が、日米同盟を強化する目的で、南沙問題に首を突っ込んで中国との敵対を強めていくと、いずれ財政が弱まった米国が軍事的にアジアから撤退して、日本は米国からはしごを外され、米国の後ろ盾なしに中国と対決することになる。日本が、米国の後ろ盾なしに海洋アジア諸国を率いて中国と対峙するつもりなら、それは立派だ。うまくやれば成功し、日本は中国と、協調すべきところは協調し、対立すべきところは対立するという、いい意味でアジアを率いるライバルとなる。今から本腰を入れてやるなら、まだ何とか間に合うかもしれない。

 私が心配するのは、今の日本政府の人々に、米国の後ろ盾なしに日本が独自に海洋アジア諸国を率いて中国と向き合っていくつもりがなさそうなことだ。日本の官僚や政治家の多くは、対米従属以外の国家戦略を想像できない。外務省などでは、そのようなことを考えることすら忌避する空気がある。官僚機構の傘下にあるマスコミや大学も状況は似ている。日本の将来が今の延長線上にあるとしたら、米国の後ろ盾を失い、台頭した中国と自力で向き合わねばならなくなった時、日本は、対米従属から対中従属にするりと転換してしまうだろう。またもや無条件降伏である。とても卑屈で無能で格好悪い。

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中国包囲網の虚実(2)

2011年11月17日  田中 宇


これは「米国が誘導する中国包囲網の虚実」の続きです。

 11月16日、米国のオバマ大統領が、大統領就任後初めてオーストラリアを訪問し、北部の港町ダーウィンに2500人の米軍海兵隊を駐屯させる計画を発表した。来年、まず250人が駐屯する。豪州に米軍が恒久的に駐留するのは初めてだ。豪州への駐留は、米軍が中国包囲網を強化する一環であると報じられ、1970年代に終わったベトナム戦争以来の、太平洋地域における米軍の増強であるとか、米豪軍事同盟の30年ぶりの大転換であるとか言われている。(Eyeing China, U.S. Expands Military Ties to Australia

 日米同盟の強化、南シナ海の南沙群島問題への米国の介入、北朝鮮への対抗を理由とした米韓軍事同盟の強化、インドと米国との軍事関係の強化など、米国は中国の軍事台頭に対抗して中国包囲網を着々と拡充しており、オーストラリアへの初めての米軍駐留もその一環である、というのが日米などのマスコミの大方の論調だ。これで米国が軍事的な軸足を中東からアジアに移動してきたことが明らかになったとも指摘されている。TPPも中国を入れないことで、経済的な中国包囲網なのだという指摘もある。(US to base 2,500 troops in Australia

 しかし、今回の件を詳細に見て考えていくと、事態はもっと複雑であることがわかる。米軍の海兵隊は、総数の3分の2以上がアジア太平洋地域に駐屯しており、そのほとんどが沖縄にいる。2500人の海兵隊がどこから移動してくるのか、米政府は発表してないが、沖縄からの移動になる可能性が高い。沖縄の海兵隊の多くは、住宅密集地の中にある普天間基地にいる。普天間から辺野古への移転は、沖縄の人々の強い反対により、進んでいない。米政府は日本政府に、来年までに辺野古移転を決めろと圧力をかけているが、移転は実現しないだろう。(Obama, Noda Talk Futenma: `Both Sides Understand We Are Approaching a Period Where You Need to See Results'

 普天間の海兵隊を、辺野古でなくグアム島に移動する構想もある。しかしグアム島の人々は、大量の海兵隊員とその家族が引っ越してくると島のインフラがパンクしてしまうと恐れ、海兵隊の移転に反対する声が強い。海兵隊や空軍の訓練場所を沖縄からグアムに移すことについても、グアム側の反対が強まっている。沖縄とグアムの状況を見て今夏には、米議会の3人の上院議員が、沖縄の海兵隊をグアムだけでなくハワイや米本土にも分散移転する構想を発表している。(Group to protest shift of U.S. military exercise from Okinawa to Guam)(日本が忘れた普天間問題に取り組む米議会

 このような海兵隊の駐屯をめぐる苦境がある一方で、日本や韓国、東南アジア諸国、豪州などの東アジア諸国は、米国がアジア太平洋地域から撤退していきそうだと懸念している。米政府は財政難を理由に、軍事、外交の両面を「効率化」するといって、これまでのような世界に対する手厚い関与をやめていこうとしている。

 米国が出て行ったら、アジア諸国にとって、急速に台頭する中国の影響力が大きくなりすぎる。そうしたアジア側の米国への懸念が昨年から強くなり、米政府は対策として、クリントン国務長官が「米国はアジアに関与し続ける」と表明したり、中国とASEANが対立する南沙群島問題で、米国がASEANの肩を持ち、中国を激怒させたりしている。だが、これらは象徴的な動きでしかなく「口だけ」の観もある。(南シナ海で中国敵視を煽る米国

 そんな中で、豪州政府が米国に対し、沖縄からグアムに移転する予定になっている海兵隊の一部を豪州に駐屯させても良いと提案した。提案は今年6月、豪州のシンクタンク(Lowy Institute)が作り、9月に豪州と米国の軍幹部が会議を開いて方向性を決定した。昨今の米政界では、中国を仮想敵とみなして反中国的なことを言うほど選挙に有利だということになっている。共和党の大統領候補の多くは、露骨に反中国的なことを言う。それでオバマ政権も、豪州への海兵隊駐屯開始を、豪州側から提案された便利な策だったので実施するとは言わず、中国包囲網の一環だと演出しているのだろう。(Permanent US Military Presence in Australia

 豪州経済は、中国に鉄鉱石や石炭などを売ることで成り立っている。中国が豪州産品を輸入しなくなると、豪州経済は成長が鈍化する。豪州政府は、海兵隊の駐屯で中国側を怒らせたくない。そのため、今回の件は、米軍が豪州に基地を作って駐屯するのでなく、海兵隊が豪州軍の基地の一部を借りて駐屯する形をとっている。こうすることで、外国軍を駐屯させたくないと考える豪州国内の世論にも配慮している。

▼中国包囲網の「遠巻き」化

 今回の件に関して中国では、マスコミが米国や豪州を批判する論調を載せているが、中国政府は米豪を非難していない。中国政府は米豪の行動に意表を突かれ、何も言えないのだという見方があるが、今回の動きは遅くとも9月に報じられ始めており、中国政府は十分に予測できたはずだ。むしろ、今回の件は中国にとって脅威になっていないので看過していると考えた方が妥当だ。(The U.S. expands military activity in Australia and stresses its Asian presence.

 今、海兵隊が駐屯している沖縄は、中国本土からの距離が約500キロだ。それに対し、来年から海兵隊が駐屯する豪州のダーウィンは、中国本土からの距離が十倍の5000キロもある。海兵隊は中国との敵対を強めるのでなく、中国の近くから撤退していくのである。米軍が初めて豪州に駐屯する点は「中国包囲網」という感じもするが、米軍は中国と露骨に敵対するのでなく「遠巻き」にしている感じだ。海兵隊にはグアムに移る予定の部隊もいるが、グアムは中国から約2500キロで、これまた撤退していく方向になる。

 豪州への駐留は、中国とASEANが対立する南沙群島の近くに米軍を置くことを意味するという指摘もあるが、南沙群島までの距離は、沖縄から2500キロ、ダーウィンから3000キロだ。沖縄からダーウィンへの海兵隊の移動は、南沙群島に近づくことになっていない。

 海兵隊の一部が沖縄から豪州やグアムに移ることの意味については、沖縄だと中国が自国の影響圏の境界線と考える「第1列島線」に隣接し、中国軍のミサイルが飛んでくる場所なので、もっと遠くて安全な「第2列島線」の外側である豪州やグアムに移るのだという指摘がなされている。(US and Australia tighten military ties September 14, 2011

 2つの列島線とは「中国は朝鮮半島から沖縄の西側沖合、台湾、南沙群島をつないだ第1列島線の西側を影響圏とし、米国は伊豆諸島からグアム島、フィリピン、インドネシアをつなぐ第2列島線の東側を影響圏として、相互に干渉しない」という米中の暗黙(ないし秘密)の了解事項のことだ。(第1、第2列島線の地図)(消えゆく中国包囲網

 今回の件が、第1列島線の近くにいる沖縄海兵隊を、第2列島線の外側の豪州やグアム島に移すことを意味するのだとしたら、それは、中国が日本(沖縄)を攻撃してきたときに米軍が日本を守るつもりがないことになり、日米安保条約が空文であることを意味している。米政府は、中国包囲網を作ることを示唆するが、具体的にやっているのは包囲網をしだいに「遠巻き」にすることだ。現実は、中国包囲網の強化とは逆の、第2列島線以東への撤退である。白を黒と言いくるめている感じだ。

 オバマは豪州での演説で、今後の米国がアジア太平洋地域を重視していくことを強調した。オバマは豪州からインドネシアのバリ島に行き、米大統領として初めて東アジアサミット(ASEAN+日中韓印豪)に出席する。TPPでは、米国が経済面でアジア太平洋を重視していることを示している。日本では、米国は急にアジアを重視するようになったと歓迎されている。

 しかし、沖縄から豪州への海兵隊の移動は中国近傍からの撤退だし、TPPは米企業を儲けさすために日本経済を弱めてしまうものになる可能性が高く、米国は同盟国に対する思いやりに欠けている。米国は韓国に対しても、米韓FTAを通じ、韓国経済を痛めつけようとしている。米政府の「アジア重視」は、裏表があり、目くらましが多い。(貿易協定で日韓を蹂躙する米国

【続く】

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